「おはよう」


私の苦手な朝の学校の空気を吸いながら、ほとんど喋らないような男の子と挨拶する。

学校って嫌いだ。

裏では陰口を言っていた人も、学校に来ればその子とわいわい楽しんでいたりする。

陰口や悪口を言わないように、なんて言っていた教師達も、こっそり教頭の悪口を、同じ立場の人間と話していたのを私は知っている。

さっきの男の子は、ハルトの親友のくせに、私にハルトについて愚痴った事がある。
そんなの、本人の目の前で言って、本気で喧嘩すればいいじゃない。
どうして私に言うの?


ハルトには、言えるわけが無い。


・・・・・・という事は、百香も私に内緒でハルトに愚痴っていたりするのだろうか。

ハルトも、嫌々私とデートしているのではないだろうか。

本当は百香と遊んだりしたい。

なのに、‘ 付き合っている私 ’のせいで、百香と一緒に居られなくて寂しい思いをしている。

あってもおかしくない話よね・・・・・・。


そう思いを自分自身にぶちまけていたら、誰かが後ろから私をバックハグした。


「キャッ!誰!?」


「あはははは! 優美驚きすぎだって。 俺だよ」


肩をぽんぽんと叩いて、ハルトが背後で笑っていた。


「もー! び、びっくりするじゃん!」


可愛く怒ったふりをした。
変な事を考えると、怜に読み取られそうになるからだ。

私達は、上靴に履き替えて、新館三階まで階段で上がった。
上がっている途中に、ハルトにちょっかいをかけられたり、怜にムカついた顔を向けられたり・・・・・・。


いつまでこんな生活が続くんだろう・・・・・・。


ハルトはともかく、怜はいつまで私にくっついているの・・・・・・。


「いつまでいたっていいじゃん。 俺がいなくなるのを待てば。 きっとそのうちいなくなってるよ」


初めて私に見せる、ネガティブで少し悲しそうな顔。

いつも強気で、誰にも反論させないような性格だったのに・・・・・・。


「おーい、優美さーん。止まって何してるんだい?」


ドキリとして何段か先の階段を見上げると、ハルトが見下してニヤニヤしながら私の方を見ている。


「あ、あぁ、ごめん! 教室、行こっか!」


私は夢から覚めたように、ハルトの横を通り過ぎた。


階段を登り切った所で、ハルトが私の腕を掴んでいた。


「え・・・・・・何?」


ハルトは、頬を赤らめながらも、私ににこりと笑いかけた。


「手、繋ぎたい」




パシッ!!




踊り場と廊下に、鈍い音が響いた。


「・・・・・・あっ」


鈍い音の正体は、私だった・・・・・・。

気づかないうちに、ハルトの手を振り払ってしまっていたのだ。


「・・・・・・優、美?」


ハルトは、傷ついたらしい。
私は、少し罪悪感を覚えたが、一言、ごめんと
謝ってハルトのもとから走り去った。


「おっ、おはよぉ〜優美! ・・・・・・ん、どうしたの?なんかあった〜?」


教室に入った途端、百香が心配そうな笑顔を向けてきた。
もちろん百香は、私がハルトの手を振り払った事なんて思いもしないだろうけど。


「別に・・・・・・。なんでもないよ」


あっていた目を逸らす。
そのまま私は百香の横を通って、席に着いた。

私が瞬きをすると同時に、ハルトが教室に入ってきた。

一瞬戸惑っていたが、まず近くにいた百香に挨拶をした。

ほらね、やっぱりそうなんだ・・・・・・。
そりゃあ、挨拶なんて誰にでもするし、するのが当たり前の事でもある。

でも、そんな顔なんかされたら、こっちだってそう思っちゃうじゃない・・・・・・。



‘ ハルトは浮気なんかしないよね〜 ’



そうこの前ハルトに聞いて「もちろんだって」
って、そう言ったのに・・・・・・。


百香が好きならそう言えばいい。

私に別れてって言えばいい。


それだけの事を、私に言わなかったんだ・・・・・・。

すんなり私の隣を素通りするハルトに、一種の怒りというものが生まれた。



あーあ・・・・・・、私ってちゃんと青春出来てるの?

彼氏が出来たら、リア充なの?

リア充って、リアルを充実してる人の事のはずなのに、自分はリア充じゃない。


ねぇ、私。


私って幸せなのかな。