被害者である父のことを面白おかしく嘘八百並びたてた記事。父は可哀想な被害者ではなく、実は加害者だったのだと――結果的に被害者になっただけであり――根拠もなく記されている。

 探偵の佐藤はこの記事を書いた記者にも話を聞いていて、こともあろうか、ここでも古川の名前が上がっていた。

 古川は被害者と加害者以外で唯一現場にいた人間として、真相を話しますといって雑誌社にやってきたという。
 
 古川は雄弁に工場長である父がいかに悪い人間かを語った。ナイフを持ち出して挑発したのは父の方で、犯人とされた馬酔木和成はもみ合った末に誤って刺してしまっただけ。つまりは正当防衛なんだと古川は主張した。止めに入った古川自身が、軽い怪我を負ったと、どこからも耳にしたこともない話まで交えていて、だからナイフに僕の指紋が付着していても、警察は僕を容疑者にはしなかったと自信満々に語ったのだという。

 記事を書いた田口という記者は最初古川の話を聞き、これは特ダネだと思い、狂喜乱舞したという。しかし古川の話を聞けば聞くほどに信憑性が薄れ、スーっと冷めていった。
 
 古川の話を信じたわけではないが記事としては面白い。だから、あくまで憶測として、推測として、可能性の一つとしてその話を一切断定することなく記事として世に出した。

 この記事は事件を面白おかしく見ている読者の目には実にセンセーショナルに映ったことだろう。実際、記事を読んだ人間たちは私たち被害者遺族を蔑み、厭い、敵視した。