「美和…愛してる」

小声で慣れないニュアンスを呟くように吐いた。
寺坂くんと目が合いそうになり、視線を下に逸らす。

私は照れるどころか、思わず吹き出しそうになり、手を顔の前に近づけてパタパタ扇いだ。


「寺坂くん…あの…これは一体」

猿みたいに耳まで真っ赤にした寺坂くんが、私に問いかける。


「ちょっと言ってみたくなっちゃって」

今になって恥ずかしくなったのか、私の真似をするかのように、手でパタパタと扇ぐ。

寺坂くんに釣られるように、私も思わず口に出していた。


「駿…
何か照れるね。違う意味の方だけど」


「俺も!今すっごく恥ずかしい
堂々と廊下で愛を告白するとか、自分でもビックリだわ」


人が変わったように言葉を口にする寺坂くんを見ると、まるで役者かと思うくらい別人に思えた。

行き交うクラスメイトが素通りしていき、何だかホッとする。


案外人に見られてると、心の中で感じているだけで、それほど見られていなかった。


寺坂くんと立ち話を5分程してると、″俺も帰るから待ってて!″と言い残し、教室に戻っていく。

私は寺坂くんの後ろ姿を目で追いかけた。



何だか一瞬で、何があったのか分からなくなるくらい、不思議なことが今起こってる。


夢じゃないよね?現実だよね?
私はほっぺを指でつねっては痛さを感じ、現実に引き戻されていく。