「清原さん、俺はそういう意味で言ったわけじゃ…」


頷いていたくせに、後ろから私の後を追いかけてきた。

国語は苦手だけど、人を傷つける言葉は知っている。
だから安易に口には出さない。


「清原さん、ごめん
俺、何考えてるんだろうね」


肩をすくめた寺坂くんが、私の表情を伺っている。
私は困っている人がいたら、見過ごせない人。

そんな寂しそうな顔をされたら、逆に困っちゃう。
寺坂くんって笑顔は見せないけど、悲しい顔は浮かべるんだね。


「1日だけ…1日だけなら彼女になってもいいよ?
1000円とかいらないから、その代わりパフェ奢って!」


「いいの?俺のわがままに付き合ってもらって…でもありがと!」


寺坂くんはさっきの表情と打って変わって、晴れやかな顔をしていた。


「1日だけ彼女になるっていっても、何すればいいの?」


今考えてみたら、軽々しくオッケーして良かったのだろうか?

1日だけ彼女になるっていっても、何もしないわけないよね。
手繋いだりとか、さすがにキスはないだろうけど、寺坂くんが想像している″彼女″って、何だろう。


「俺、彼女が出来たら一緒に本を読むって、第一に決めてる」


「ごめんなさい!
私本当に国語が苦手で、小説読むのとかちょっと…
漢字も苦手だし、最後まで読みきれるのか微妙なの」


小説を読まなきゃと何度か思ったことがあり、何冊か買っては表紙をめくっただけで、それ以降本さえ触れていない。


「じゃあ、最後まで読みきったらキスしようか」


「それ本気で言ってる?
寺坂くんってそんなこと言うタイプじゃないよね?」


「美和…
俺のことは駿って呼んで?」


「ちょっと、急に何…
心の準備まだ出来てないし」


突然下の名前で呼ばれ、胸がドキドキする。
好きとは別の胸の高鳴り。


男の人に下の名前呼ばれるのって、こんなにドキドキしたっけ…?

平常心のまま表情を変えない寺坂くんが、ちょっと羨ましい。