本屋に着いた瞬間、寺坂くんがすたすた歩いていく。
私は後を追いかけた。
寺坂くんって本を見る度に、宝物を見つけたかのように、目がキラキラしている。


「ここだよ。俺のコーナー」

寺坂くんに案内され着いた先には、″レンタル殺人鬼!!今注目の高校生作家! 寺坂シュウ″と、 黒を基調としたカラフルな色使いで書かれている、大きなPOPが目に入った。


「寺坂シュウ…?本名じゃないの?」


「うん!これが俺のペンネームだよ」


レンタル殺人鬼と書かれた本を一冊手に取ると、大学生らしきカップルの会話が耳に入ってきた。


「ねー、この小説面白いのかな?なんか題名から怖そうなんだけど」

「面白いって、俺ネットで見たよ
でもこの小説、ただたんに怖いだけじゃなくて、実は恋愛要素もあるんだよね」

「そうなのぉ?」

そう言いながらも本を手に取らないまま、手を繋ぎ、違うコーナーへ歩き去って行った。


「まじビックリしたー」

溜め込んだ息を溢す寺坂くん。
誰も寺坂くんが高校生作家なんて気付いていない。

元に私も気づかなかった人。


「私までドキドキした!
あ!今のうちにサインもらっておこうかな?」


「それは俺がもっと有名になってから
10枚でも20枚でも書いてあげる!」


「そんなにいらないよ!」


頬が緩んだ私は、思わず笑顔になる。
なんでニコニコしてるの?と言わんばかりに、寺坂くんが顔を近づけてきた。

もしかして、顔に何か付いてる?


「美和が笑ってると、俺も幸せ」


「駿も笑って?」


「俺はいいよ
美和が笑ってるだけで十分だから」


「なんで?」

寺坂くんは私の質問に答えなかった。
これ以上追及する訳にもいかず、話題を変える。



寺坂くんの笑った顔が見てみたい。
いつの間にかこれを期に、私の一つの目標になっていく。