靴を履き替え外に出ると、さっきのが嘘みたいに雨がやんでいた。
生ぬるい風が吹く度にじめっとし、湿気の多さを感じる。

歩幅を合わせて、隣を歩く寺坂くんを横目で見つめていると、視線を感じたのか一瞬目が合った。

特に何かを話す訳でもなく、沈黙の時間だけが流れていく。

寺坂くんも緊張してるのかな?
私も今緊張していて、すごく喉が渇いている。
冷たい物でも飲みたいな。


「あっ!!」

突如声を上げ立ち止まる寺坂くん。
驚きとともに体がビクッとする。


「どうしたの?」


「また俺やらかした…」


頭を抱え、悩ましい表情を浮かべる寺坂くんを見ると、何かあったのではないかと心配になる。
もしかして、締め切りが迫ってるとか?


「何かあったの?」


「俺、また自分の世界に入ってて、美和のこと一瞬忘れてた
一旦小説から離れるわ」


私の存在を忘れるほど小説が好きなんだと、そう思えた。
もしかして彼女がいないのは、これも原因の一部?

忘れられるのは悲しいもんね。


「気にしないで!全然大丈夫だから」


その後会話を続け、寺坂くんが行きつけの、駅前にある本屋に行く話になった。

大きな本屋の中にはカフェもあり、食事をしながら本を読むことができるらしい。

本屋にあまり立ち寄らない私にとっては、かけ離れた場所。


学校から徒歩10分程歩いた場所に、最寄り駅がある。


「私…駿の小説気になる」


「えっ、俺の小説!?」


「私、この機会に挑戦してみようかと思って!
読みきれる自信はないけど、興味はあるんだよね」


「美和が最後まで読みきったら、ご褒美あげるよ」


ご褒美と聞いて、さっきの言葉が頭から離れずリピートする。

″じゃあ、最後まで読みきったらキスしようか″


あれはわざとだと思うけど、寺坂くんが何を考えているのか全く読めない。



寺坂くんって、一体何者なんだろう―――。