どうにか久美の手から逃れて保健室までやってきたあたしだけど、気分は暗いままだった。


あの時透が助けてくれなかったら、きっとあたしは久美に殴られていただろう。


そう思うと深く暗いため息が出た。


「大丈夫?」


一緒に数学のテキストをやっていた明人君が心配そうにそう聞いて来た。


「うん……大丈夫じゃないかも」


正直にそう言い、軽く笑って見せた。


けれど明人君は笑わない。


「ねぇ、明人君は本当にイジメの犯人を知らないの?」


そう聞くと、明人君は目を見開いてあたしからテキストへと視線を移動させた。


明らかに挙動不審だ。


「犯人がわかってたら、保健室登校なんてしてないよ」


「それはそうかもしれないけどさ……」


それでも、明人君と透の反応はどう見ても怪しかった。


「それにさ、仮に犯人がわかっていたとしても……どうにもならない時もあるんだよ」


明人君はひとり言のようにそう言うと、もうこちらを見てはくれなかったのだった。