桜の花びらが舞い始めた4月。水野蛍は一番端の席から外の景色を眺めていた。グランドには朝練を終えた生徒達が群がっていたり、隣のクラスからは大きな笑い声が聞こえたりしてくる。いつもと変わらない景色だが今日から新学期が始まるため、学校中が騒がしい。
「おっはよー水野くーん!3年になっても隣の席とか運命すぎるっしょ!」と後ろから声をかけてきたのは同じクラスの服部ルナだった。服部はいわゆる陽キャで校則違反ギリギリのスカート丈がトレンドマーク(自分で勝手に思い込んでいるだけかもしれないが)で何故か過剰に俺に絡んでくる。
「新学期がから元気だなー。その元気分けて欲しいよ。」「新学期も冴えてないなー!てかあの噂知ってる!?」「あの噂?」全く見当がつかない話題を振られるのは想定外だった。住む世界が違う人は話してる内容もさぞかしキラキラしている。
「うちらの担任めちゃくちゃ美人らしいよ!!水野くん惚れないでね?」服部がこんなにも興奮しながら話を振ってくるものだからてっきり男の先生なのかと勘違いしていた。1年の時も2年の時も担任はよぼよぼのおばさん先生で担任には運が無いなと毎年思ってたところなので内心ほんの少しだけ嬉しかった。「興味無い。」心の隅にあるこの気持ちを押し殺していかにも興味が無いように言葉を返した。「つまんないのー。そんなんじゃ彼女できないよ?」「余計なお世話だっつーの。」「水野くん顔はそこそこいいのに本当に冴えないよねえ。クールなのに地味というか…」毎回毎回服部は俺の痛いところを突いてくる。顔だけは何故か褒めてくれて有難いのだが何よりディスりが凄いのだ。当の本人は褒めている感覚なのだろうけど。
服部と会話している間にクラスのほぼ全員の生徒が教室に集まっていた。漫画を読んでいる男子グループや彼氏に振られたやら浮気されたという内容で盛り上がる女子グループの声で今日も賑やかな教室だった。服部は仲のいい友達が固まってきたのを確認すると足早に俺の背後から離れた。俺は1人で窓を眺めるだけの朝の時間が好きで、周りからなんと言われようと気にせずに変わりゆく景色や人々を眺めていた。
「お前らー!!来たぞー!!」デカすぎる声が教室中に響いた。その声を聞いた人達は廊下側の窓から廊下を覗き込んだ。きっと服部が言っていた担任のことだろう。