澪南は男子三人と一緒に近くの喫茶店に向かう。
入り口のドアを開ければ、カラン、カランと鈴の音が鳴り、珈琲の心地よい匂いがした。
客は若者よりも三十代程度の大人が多く、ここなら落ち着いて話せそう、と澪南は思った。
四人席のテーブルに座り、それぞれ、珈琲やカフェラテを頼む。
「で、どうしてさっきみたいなことになったか説明してくれる?ちなみに、私は来栖澪南。そこの、高月と同じクラス」
ブラックコーヒーを涼しい顔で飲みながら、問いかける。
「えーと、」
と、当の本人は黙るものだから、代わりに高月が説明した。
要約すれば、童顔の男子、藤堂樹が澪南を駅で見かけ、好きになった。
友人の高月とチャラそうな男子、河野來斗は、その恋を応援し、後押しはしたが、樹は急に告白するという変な人になった訳である。
「ふーん、じゃあ、童顔君」
「酷い!俺は藤堂樹ですよ!覚えてください!しかも、簡単に人のコンプレックス言わないでください」
「どっちでも、わかるでしょ。あ、メールアドレス教えて」
「え!?いいの!?」
途中まで、憤慨していた樹だったが、その言葉を聞いた途端、嬉しそうに表情を緩ませた。
「ついでに、チャラ男君と高月も」
本当にチャラ男君こと河野來斗はついでだが、高月は何かと頼りになりそうなので、知っていても損はない筈だ。
勿論、好意などの恋愛的感情はない。
「いや、俺、河野來斗っすよ!っていうより、何で優斗だけが、普通に呼ばれてんすか?」
まっとうな疑問である。
「え?僕良い人だからだと思うよ」
「そうそう、おおまかな理由はそんな感じ。でも、こういうのはいいから、速く携帯出してよ」
二人とも、適当な返答をし、携帯を片手に急かす。
そうこうしているうちに、アドレス交換が終わり、澪南は帰る準備を始めた。
「私、帰るね。お金は置いとくから。ああ、告白はOKでいいよ。これからよろしく、童顔君」
そう言い残して、去っていった。

残った男子三人組は、一瞬沈黙が流れた後、歓喜に満ちた声をあげた。
「え?本当に!?やったー!!」
静かな店内に、樹の声が響きわたり、他の客に睨まれる。
「良かったじゃん、樹」
「肝心の名前は、変わってないけどな」
「そこは、指摘しないであげようよ」
「ま、いいか。樹喜んでるし。でも、何でかなー?あの娘、そんなに靡かなそうだったのに」
高月と河野は、内心、疑問でいっぱいだったのである。