晴れた日の午後。
女子高生の来栖澪南は、学校が終わって駅の改札口まで向かっていた。
今日も疲れた、と無表情で気の抜けたことを考えていた澪南に、驚愕の表情を浮かばせたのは、ある男子の一言だ。
「あの!好きです!付き合ってください!」
と言って、頭を下げ、手を差し出す。
「はぁ?」
この男子高校生と思わしき人物を蔑んだ目で見てしまったのも、仕方ないだろう。
なにせ、人生初の告白だが、初対面の一切言葉を交わした記憶がない人にされても、薄気味悪い。
「あの、駄目でしょうか?」
「…」
二人の間に沈黙が流れる。
男子が顔を上げ、澪南が受けた印象はこうだった。
変質者やオタクの気持ち悪い奴、…というより…。
童顔。
髪は染めずに黒髪のままでピアス等のアクセサリー類はないので、不良ではない。
身長は長身の澪南と同じくらいだが、輪郭は丸っこく、小さい子供のように目を純粋にキラキラとさせている。
それに、人懐っこい笑みも加わり、余計に幼く感じさせる。
この少年には人嫌いな澪南でも好感が持てた。
「あのー、突然すみません」
と、本当に突然、少年の後方の木の陰から、男子が二人出てきた。
彼等は目の前の少年の友人だそうで、そのうちの一人は澪南と同じ学校で学級委員を務めている礼儀正しそうな男子生徒。
もう一人は金髪にピアスというチャラそうな外見で、目の前の少年と同じ制服を着ている。
「来栖さんだよね?同じクラスの高月優斗で、こいつの友達なんだけど…。こいつ、樹が駅のホームで来栖さんのこと見たら、好きになったみたいで…。ごめんね、急で可笑しいかもしれないけど、こいつには悪意はないんだ…」
このクラスメイトの男子が高月という名前だと初めて澪南は知った。
高月は、友人の弁解をしようとはしているが、一目惚れなので変わった奴なのには違いない。
当の本人は金髪男子と話している。 
「お前なにやってんだよ!?この子と付き合いたいんなら、直球じゃなくて、女の子が好きそうなので、釣って、話せばいいじゃんかよ!」
「いや、俺知らないんだけど…」
「普通、スイーツか可愛いものだろ!お前の顔も可愛いんだから上手く使えよ!」 
「どうやって…。それに恥ずかしいし」
「この子と付き合って、キスしたいんだろ?だったらそんくらい頑張れよ」
話の内容に澪南と高月は顔が引きつる。
「本当にごめんね」
「いや、大丈夫。兎に角、高月の友達が正直だってことはわかった…」
澪南は少し考えてから、つかつかと告白してきた男子に歩みよる。
「君。告白の返事は急過ぎて無理だから、取り敢えずお茶する?君の友達も一緒に」
「え!いいの!」
「おー、良かったじゃん!お前の顔、下手なイケメンより女子に効くな!」
男子二人はかなり喜んだ。