「どっからどう見ても魅惑の美人女子高生なんだが……いまだにだれも気づかねえなんて笑っちまうよな。よっ、将来は結婚詐欺で稼ぐつもりか?」
「冷やかすなよ。ほぼ無理やり店の宣伝に付き合わされてる弟に対して、ひどい扱いだな」
「その分ギャラも出してやってるだろ」
「それはまあ……。でもそれって、正規のモデルを雇ったらもっと金がかかるからだろ」
「ちっ。バレてたか。まあいいじゃねえの。俺も助かるし、おまえだっていい小遣い稼ぎになるし、ウィンウィンだ」
「……たしかに」
兄という立ち位置で育ったためか面倒見のよさが功を成していて、いつもグループの中心にいる。学生のときからとにかく女の子にモテる男だった。が、打算的なところは昔から変わってなく、周りを困らせる天才でもあった。
いままでたくさんの女の子に「紹介して」とせがまれてきたが俺はすべて断ってきた。容姿やその性質に惹かれて下手に絡みを望んでしまった女の子たちが、目をはらして去っていくのを何度も見てきたからだ。
「つまり、お前はうちの店の宣伝のほかにも、その女子生徒が絵を描くためのモデルも務めるってことか?」
俺から今日のできごとについて聞かされた兄が ふんふんと相槌を打ちながら、鍋で煮え立ったカレーを混ぜる。
「頻度なんかはわかんないけど……こっちのモデル事情を知られちゃったから、断るに断れなくて」
「バカだなあお前も」
「元はといえば兄貴のせいだろ」
「んで? やるのか」
「……まあ」
兄はカレーを皿に盛ると、テーブルについた俺の前に置いてくれた。続いてサラダやスプーンやフォークが運ばれてくる。俺と兄の2人分の食事が並んだ。
エプロンを適当なイスの背もたれにかけると、兄はできたてのカレーとごはんとを口に運んだ。
「いいんじゃねえの? バラされたら面倒だしな。……まてよ。まさかその女の子、お前に気があるんじゃねえか!?」
「いや、それはないと思うけど」
「んだよつまんねえな~。でもこれから何度か密会するってこたあ、面白くなってくるな」
にやにやしながら兄はそう言った。