セクシュアルに組んだ黒ニーハイ、にとどまらず全身が打ち震えた。今までで一番くらいに震えた。血の気が引いていくというのはなるほどこういう感覚か。あといやな汗がぶわっと噴きだした。

 「……え……と……その……」

 さて、こういった状況ではなにを言うのが正解なのだろうか。どうやって言い訳をしよう。──え? なにをしていたと言うべきなんだ、これは!?
 
 独特の長い前髪からじっと瞳を覗かせて、日立さんはこちらを見てくる。怖いもの見たさというやつだろうか。ぜんぜん目を逸らす気配がない。これならいっそのこと生き埋めにしてほしいくらいの心持ちだ。

 「えっと、これにはワケが、というかその……」

 「……」

 「あれ? そういえば、なんで俺ってわかったの?」

 自慢というほどではないけれど、この"女"の姿に自信がないわけでもない。

 ショップを営む兄に初めて女物を着させられたとき「現代の大和撫子!」と囃し立てられ、そのときは身内びいきもあるだろうと鵜呑みにしなかった。が、それ以来兄は新製品を作るとそのたびに、俺に着せるようになった。もちろん女物の服をだ。

 いまさっきやっていたみたいに実際に商品を着てみて、写真を撮る。服を着た感じがどんな風だとか、撮った写真も参考にしながら真面目に商品の改善を行っているみたいだが、まず男子高校生の弟に無理やり女物を着せるあたり正気ではない。

 しかし、店の外に貼ってあるポスターに目をやる通行人たちに「この女の子かわいい」と言われたり、俺自身「自分が自分じゃないみたいだ」と錯覚するくらいには"女"ができあがっているのではないかと、そう自負しているところはたしかに、ある。

 (……だけど)
 
 日立さんはさっき『若嶋さん』と俺の苗字をつぶやいた。このクラスに若嶋は俺しかいない。もしかしたら日立さんの知り合いに若嶋という名字の女の子がいて、人違いをしているのかも──なんてことを考えていたら、日立さんが小さく口を開いた。

 「……いつも、見てたので」

 「へ?」

 その言葉にまんまと心臓が踊らされる。それはどういう意味、と訊ねるまえに日立さんが大きなスケッチブックみたいなものを両腕でぎゅっとして、答えた。
 
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