――どうしよう――

それが最初の感情だった。
よろよろ自分の部屋に戻り、倒れ込むようにベッドに潜り込む。

『私のお腹の中には赤ちゃんがいる』

それは、ものすごい奇跡だってわかっている。
けれど……。

――智也くんはなんて言うだろう。
吐きそうなほどの焦燥感の中、恋人の顔が浮かんだ。
この子は智也くんとの子だ。それ以外は考えられない。

社会人の智也くんと、まだ半分学生の私。
色んな選択肢が浮かんでは消えていく。

どうしたらいいんだろう。わからない。
『私』は、どうしたい?
自分に聞いてみるけれど、心の中を不安が渦巻いていて、呼吸が浅くなっていくばかりだ。


まずは、智也くんに伝えよう。
ひとりで抱えきれなくなって、スマホをつかむ。
震える手で智也くんの番号を表示させた。
智也くんはどんな反応をするだろう。
もしかしたら……。
私が一番望む言葉をくれるかもしれない。

そんな、彼を試すような気持ちに気が付いた途端、発信ボタンを押そうとしていた手を寸でで止めた。
ずるい考えを振り払って、今はやめておこうと結論づけた。

第一、智也くんはまだ仕事中だ。
仕事が終わる頃に電話をかけよう。
スマホをベッドサイドに放り投げた。

吐いた息は震えながら、晩冬の夕陽が射し込む静寂の部屋に溶けていく。
先が読めないことが不安で、私はカタカタ震えていた。
正直言うと、智也くんに伝えることが怖かった。


智也くんの気持ちが、うすうすわかっていたから……。