「とにかく」とまなみは言った。
「私は、研究所に、華恋を連れて帰る義務が、あります。」
「華恋、異存は、ありませんか?」
「はい、ありません。お願いします。」
そこへ、健太郎が、食い下がる。
「もう、彼女は、感情を持ち始めているんだ。」
「この娘は、性格が、良い娘だ。それを、初期化するなんて。ひどすぎる。」
まなみは、言った。
「あなたには、美咲ちゃんだけ、かまってなさい。」
「それじゃ、研究所まで、俺もついて行って、いいだろう?」
「それは、ご自由に」とまなみは、言った。

「なあ、華恋、本当にいいのか?」と健太郎は、尋ねた。
「もし、美咲さんと、別れてくれるなら、残ります。」そう言って、華恋は、微笑んだ。

やはり、ここをクリアしないと、ダメらしい。
しかし、自分で言うのも、なんだが、美咲も捨てがたい。
そこへ、美咲が言った。
「未練タラタラね。健太郎!」
「そ、そそんなことは、あるもんか?」と健太郎はどもった。小さな頃からの癖だった。嘘をつく時の。

その時、華恋が、「危ない!」と言って、かけ始めた。
ビルとビルの間を、蹴り上がった。
「なんだ、スパイダーマンみたいだな」と健太郎が言った。

屋上には、金網の外に、中学生の女の子が、震えながら、立っていた。
「自殺なんて、ダメよ」と言いながら、華恋は、女の子を、軽く金網の中へ、入れた。

「そんな、華恋には、制御プログラムで、あんな行動はしないはずなのに」とまなみが言った。
「彼女は、覚醒したんだ、なあ、美咲?」
「そうね。最初は、抑えてたんだわ。」と美咲が言った。
博士の話によれば、特別な能力を、与えていないと言ったが、嘘だった。制御プログラムで、その力が、出せないように、していた。

大人しく、華恋は、3人の元へ、帰ってきた。
華恋は、黙っていた。上目づかいで、健太郎を見た。

「なあ、まなみさん、どうして華恋は初期化されなければ、ならないんだ。今だって、人助けしたじゃないか?」
「制御プログラムの管理下じゃないと、なにをするか、わからないわ?」
「例えば?」
「恋敵の美咲さんに、危害を加えるかも、しれない。」
「その時は、俺が守る。」
「簡単に言っていいの?本気になれば、10人が寄ってかかっても、敵う相手じゃない。」
「それは、わかる。」

私は、研究所に戻ります。ちゃんと、直して健太郎さんのもとへ、帰ってきます。」

「初期化っていうのは、なんの記憶も残らないんだ、今まであった一切のことが」
「わたしは、博士を信じています。」
「そして、健太郎さんのことも。忘れていたら、教えてください。」

研究所に4人はついた。
「ここで、お別れね」とまなみは、言った。
「健太郎さん、さようなら。」
「寂しい事言うなよ。また、会おう」
「ちゃんと、直してね。」と美咲。

この一件は、ここで一旦終わったかのように、見えた。だが、運命の糸は、再び健太郎と華恋をつないでいく。