「僕も、なかまにいれて。」
 にちようび、あきちでみんなとサッカーをしていたたけし君に、僕はそういいました。

「いやだ。おまえがいたら、まけるんだもん。」
 たけし君は、そういいました。だけど、僕はどうしてもサッカーをやりたくて、なんどもたけし君におねがいしました。

 すると、たけし君は、いいました。

「なんかいもうるさいんだよ、うざいんだよ、おまえ、死ね。」

 僕はしょんぼりと、いえにかえることにしました。



 おうだんほどうのしんごうが、青にかわるのをまっていると、うしろからスーツすがたの人が二人やってきました。

「あのぶちょう、しごとばっかりおしつけて。うざいんだよ。はやくさっさと死んでくれないかなあ。」
「そうだそうだ、びょうきになって死ねばいいのに。」

 男の人たちは、しんごうが青にかわると、そういいながらあるいていきました。



 いえにかえると、おかあさんが、テレビでドラマをみていました。

「ああ、この女、むかつくのよ。さっさと死ねばいいのに。」

 おかあさんは、おせんべいをゴリゴリとかみながら、そういいました。



 僕が、へやにはいると、おにいちゃんがゲームをしていました。そのゲームは、じゅうで、てきをうっていくゲームでした。

「死ねっ、死ねっ、さっさと死ね、このやろう。」

 おにいちゃんは、そうなんどもいいながら、ゲームきのボタンをおしていました。




 つぎの日、がっこうにいくと、たけし君がきのう、サッカーでかったことをみんなにじまんしていました。

「あのバカがいなかったおかげで、二くみのやつらにかったんだよ。」

 どうやらバカとは僕のことのようでした。僕はおこり、たけし君にいいました。

「僕はバカじゃない。」

 だけど、たけし君は、「おまえがいたらチームがまけるんだから、おまえはバカじゃないか。」といってあやまってくれません。

「バカじゃないもん。」
「いいや、おまえはあほで、のろまで、バカだよ。」
「ちがうもん。」
「いいや、おまえはバカだ。」

 たけし君は、なんども僕のことをバカといいます。僕ははらがたって、さけびました。

「たけし君なんて、だいきらいだ。死んじゃえ。」


 すると、たけし君は、「おまえが死ねよ、ばーか。」といって、みんなをつれていってしまいました。




 その日、僕は、むかむかとしていました。


 かえりみち、僕はたけし君たちがいるあきちのまえをとおりたくなくて、よりみちをしました。


 そして、白いマンションのまえをとおりました。

「ん?」

 そのマンションのちゅうしゃじょうに、はなたばが、おかれていました。
 よくみようと、そばまでいくと、はなはかれていました。ずいぶんじかんがたっているようです。


「だれかがすてたのかな。」

 僕は、ポイすてはいけないとおもい、そのはなたばをもつと、ゴミすてばまでもっていきました。そして、すてました。


「そこのきみ、ゴミをすててくれてありがとう。」

 女の人のこえがしたので、僕はふりかえりました。すると、そこには、セーラーふくをきた、みつあみの女の子が、にこにことたっていました。

「どういたしまして。」

 僕は、えがおでそういいました。すると、女の子は、ふふっとわらったようでした。

「わたしね、じつはかみさまなの。」
「えっ?」

 女の子がいったことばに、僕はおどろきました。

「ほんとうに?」
「ほんとうよ。だから、かしこいきみに、1つだけ、おれいにまほうをかけてあげる。」

 僕は、うれしくなりました。

 女の子は、僕のあたまをなでました。すると、ふしぎなひかりがちりました。

「あした、いいことがあるから、たのしみにしていてね。」
「ありがとう、おねえさんのかみさま。」

 僕は、ばいばいと女の子のかみさまにてをふると、かけだしました。
 ふと、うしろをみると、もう女の子のかみさまはどこにもいませんでした。




 つぎの日、僕はきょう、いいことがあるといわれたので、ルンルンとしながらがっこうへといきました。

 きょうしつのドアをあけ、じぶんのせきにつきます。ランドセルから、きょうかしょをとりだし、つくえのなかにいれようとしたときです。僕は、つくえのなかにかみが、はいっているのにきづきました。

『おまえが死ねよ、バーカ』

 そのかみには、そうかいてありました。


「だれ?!こんなことをしたのは?」
 僕はさけんでいました。まわりをみると、たけし君がにやにやとわらって、こっちをみていました。

「たけし君でしょ、こんなことをしたの?!」

 僕は、たけし君にいいました。しかし、たけし君は、いいます。

「しらね~よ、おれ。」
「うそだ!ぜったい、たけし君だ!」

 僕は、たけし君にさけびます。しかし、たけし君は、みんなにいいました。

「おい、みんな、きいてくれよ。こいつ、おれのことをはんにんあつかいするんだぜ。」

 みんなは、僕のことを、つめたいめでみました。

『はんにんは、ぜったい、たけし君なのに…。』

 僕はくやしくなりました。
 そして、おもいました。

『たけし君なんて、いなくなればいいのに、死ねばいいのに。』

 だから、僕はいいました。

「たけし君なんて、だいきらいだ。死んじゃえ。」


 そのつぎのしゅんかんでした。

 たけし君が、うしろにひっくりかえって、そのままうごかなくなりました。



 クラスのみんなが、ひめいをあげます。あわてて、せんせいをよびにいく子もいました。

「たけし君、たけし君、しっかりして!」

 僕は、あわててたけし君によびかけました。だけど、たけし君は、めをとじたまま、うごきません。

「たけし君、ほんとうに死んじゃったの…?」

 僕はただぼうぜんと、たおれているたけし君をみていました。




 ふつかご、たけし君のおそうしきがありました。

 僕は、おかあさんやせんせいやみんなと、おそうしきにでました。
 そのおそうしきも、もうすぐおわりにちかづいていました。


「たけし、たけし…!」

 たけし君のおかあさんが、ひつぎのなかのたけし君にだきついて、ないていました。
 そのたけし君のおかあさんを、たけし君のおとうさんは、たけし君のからだからひきはがしました。

「いやだ!わたしもたけしといっしょに、死なせてえぇ!」

 くるったようになく、たけし君のおかあさん。それをたけし君のおとうさんも、なきながらおさえつけていました。

 たけしくんのはいったひつぎのふたがしめられると、スーツをきた男の人たちが、どこかへとはこんでいきます。僕は、きっとこれがたけし君のすがたをみられる、さいごだろうとおもいました。


 ひつぎのなくなったへやで、たけし君のおかあさん、おとうさん、そしてたけし君のおとうとたちは、なきつづけていました。

 僕は、それをみて、こころがいたくなりました。




 僕は、おかあさんにつれられて、いえにかえりました。

『僕が、あんなことをいったから、ほんとうに死んじゃったの?』

 僕は、たけし君にあんなことをされたので、たけし君をだいきらいになりました。だけど、僕がだいきらいなたけし君が、いなくなってかなしむ人もいるということをしりました。
 そんな、だれかにとって、とてもたいせつなそんざいだったたけし君を、僕はころしたのです。

 僕は、さいていなにんげんです。



―一つだけ、おれいにまほうをかけてあげる。

「もしかして」
 僕は、はっときづきました。たけし君が死んだのは、あの女の子のかみさまにあったつぎの日です。もしかしたら、あのかみさまがかけたまほうのせいで、たけし君は死んでしまったのかもしれません。

「まほうを、といてもらったら、もしかしたらたけし君は生きかえるかもしれない。」

 僕は、そうおもいました。




 つぎの日のがっこうのかえりみち。僕はいそいで、あのマンションのちゅうしゃじょうまでいきました。
 すると、そこにはあの女の子のかみさまがいました。

「おねがいします、かみさま。僕にかけたまほうをといて、たけし君を生きかえらせてください。」

 僕はかみさまにおねがいしました。ですが、かみさまはこまったように、わらいました。

「ごめんね、きみ。にんげんは死んだら、にどと生きかえることはできないの。だからね、たけし君はにどと、生きかえることはできないの。」
「そんな…。」

 僕は、なきそうになりました。だけど、どうじに、とてもはらがたってきました。

「だって、僕は、たけし君に死んじゃえといったけれど、ほんとうに死んでほしいなんておもってなかったのに…。」

 僕は、おこって、女の子のかみさまにいいました。

 すると、女の子のかみさまは、すこしおこって、僕にいいました。

「きみ、にんげんはね、いちど死んだら、にどと生きることは、できないの。いのちというものは、たった一つしかない。とてもたいせつで、とりかえしのつかないものなの。なのに、どうして『死ね』とか『死んじゃえ』ってことばを、かんたんにつかったの?」

「それは、たけし君が僕に『死ね』っていったから…。」

「ほかのひとがつかったからといって、きみもかんたんにつかっていいことばなの?」

「だけど、みんなもいってるもん。おかあさんだって、おにいちゃんだって。ほかのひとたちだって。なのに、どうして僕だけ、こんなひどいめにあわなきゃならないの?」

 女の子のかみさまは、一つためいきをつくと、空をみあげました。そして、僕をしんけんなめで、みました。

「…わたしは、きみにかけたまほうを、きみが死ぬまでずうっと、といてあげない。だから、これからもきみが、だれかにむかって『死ね』というたびに、そのあいてがほんとうに『死ぬ』わ。」
「そんな…。」

 僕は、ショックでなにもいえなくなって、そのばにがくりとすわりこみました。

 だけど、かみさまは、そんな僕に、ほほえみかけました。

「だいじょうぶ、それはこれからのことだから。」

 女の子のかみさまは、僕のあたまをなでました。すると、きんいろのひかりがまたたいて、僕はきをうしなってしまいました。




 はっときがつくと、僕はいつのまにかがっこうにいました。

「え…?」

 僕は、わけがわからなくて、だけどとりあえずじゅぎょうのじゅんびをしないととおもって、ランドセルからきょうかしょをとりだしました。

 そして、それをつくえにいれようとしたときに、つくえのなかに、かみがはいっていることにきづきました。

 そのかみには、あの日と、おなじことばがかいてありました。

『おまえが死ねよ、バーカ』

 僕は、はっとして、たけし君のせきをみました。そこにはたけし君がいて、にやにやとわらって僕をみていました。

「……」

―だいじょうぶ、それはこれからのことだから。

 あの女の子のかみさまがいったことばのいみを、僕はりかいしました。たけし君が死んだのはゆめだったのです。
 だけど、僕が『死ね』といったあいてが死ぬまほうは、まだとけてはいません。

 僕は、たけし君のまえにたちました。そして、たけし君のめをみつめて、いいました。

 「たけし君、こんなにも、ひどくて、つらいことばを、もうにどとつかってはいけないよ。」