20××年〇月△日
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泣かないって決めたはずなのに
どうして涙が止まらないんだろう。
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一架の日記はそこで終わっていた。
日付は一架が亡くなる二日前。
「…っ。」
涙が、止まらなかった…。
一架に、もう一度会いたい…。
もう一度笑って俺の名前を呼んで。
そうしたら、
俺も同じように笑って
今度こそちゃんと好きだって伝えるから…。
ひとしきり泣いた俺に向かって
お母さんが口を開いた。
「これ、あなたへの手紙。
一架の枕の下から出てきたの。」
俺に差し出されたのは
”修也へ”と
力の入らない細い文字で書かれた
真っ白な封筒。
「これも、読んであげてくれる?」
俺は、ただ黙ってそれを受け取り中を開いた。
修也へ
この手紙を読んでるってことは
私はもうこの世にはいないんだよね?
ねぇ、修也。
私は修也の言った通り
ただ強がってるだけで本当は弱虫なの。
なんで私が病気なんかにって思ったし、
死ぬのだって怖かった。
修也に出逢ってからは
余計にそう思うようになったんだ。
修也は、頭がよくてなんでも出来て
人の中心にいるような王子様。
でも、それは偽りの姿で
私が知ってる本当の修也は
意地悪でよく笑って、
すごく手と心があったかくてとっても優しい人。
私をすごく理解してくれて
私の欲しい言葉をくれて
私を笑顔にしてくれる人。
そして…私に希望をくれる人。
…私はそんなあなたが大好きでした。
これは、一生伝えないつもりだったんだけど、
弱った私は修也に甘えたくなっちゃったみたい。
修也と出逢って私はすごく欲張りになった。
もっと生きたい。
おばあちゃんになっても
修也の隣にいたい。
なんてそんな事を考えるようになってた。
私ね、初めて修也のおうちにお邪魔した時に
修也のお母さんに会ったの。
そこで、修也家族に何があったか教えてくれて
私に、”ありがとう”そう言ったんだ。
それを聞いて、私、”生まれてきてよかった”
そう心から思った。
お母さんとお父さんが
願いを込めてつけてくれた名前のような人になれたんだ
ってすごく嬉しかったの。
それが修也の事だったから尚更。
私、修也に出逢えたおかげで
悔いがない人生を送ることが出来た。
私の願いを叶えてくれて、
それ以上の事もしてくれて、
すごく、幸せだったよ。
本当にありがとう。
キミと過ごした180日間は
私にとって一生の宝物となりました。
最後に、私から2つお願いがあります。
1つ目。
一年に一回、それだけでいいから
私の事を思い出してください。
やっぱり完全に忘れられちゃうのは
寂しいから。
そして2つ目。
絶対、幸せになってください。
すごく素敵な人と出逢って
あったかい家族を作ってください。
私、空から修也の幸せそうに笑う姿
ずっと見てるから。
私の分までやりたい事をやって
たくさん生きて、
私の分まで笑って下さい。
これが私からの最期のお願い。
もちろん、修也なら叶えてくれるよね?
あの日、屋上で出逢ったのが
修也で本当によかった。
私に、幸せと笑顔をくれてありがとう。
一架
「今回出版されたこの小説、
実話だとお聞きしたんですが本当でしょうか?」
「はい。僕と彼女の本当にあった物語です。」
「そうですか。
では、この本を書こうと思った
きっかけは何だったんですか?」
「最初は、僕と彼女2人の思い出として
取っておきたいと思っていました。
でも、彼女が僕にくれた手紙の中で言っていたんです。
”やりたい事をやって”って。
それを読んだ時に、
僕は彼女の病気の事や彼女と出逢って救われた事、
そして、命の大切さを世の中の人に知ってもらいたい、
そう思ったんです。
彼女の言葉が僕以外にも苦しんでいる誰かを
救えるんじゃないかと思って。
だから僕たちの180日間を
こうして小説にして出版させて頂きました。」
「そうだったんですね…。
今回出版したこの”キミと過ごした180日間”
ですが、累計50万部を突破いたしました。
これについてはどう思われますか?」
「そうですね。
まず、無名な僕の作品を手に取っていただいた方々に
とても感謝しています。
そして、この作品を書くきっかけをくれた彼女と
作品を書くことを快く許して下さった
彼女の家族にも感謝の気持ちを伝えたいです。」
「もし、もう一度彼女に
会う事が出来たならどうしますか?」
「正直、分からないです。
何度も彼女に会いたいと思ったけど、
会えることはないですし。
でも、ただ隣で川を眺めたいなとは
思いますね。」
「そうですか。
榊さん、長い時間ありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
俺は大きな拍手に囲まれながら
会場を後にした。
あれから10年。
俺は白花病の研究をするために
薬品会社の研究員として働いている。
そしてその傍ら、
一架との出逢いを物語にして
小説として出版した。
梨央ちゃんと翔は結婚して
2児の父と母となっている。
一架が亡くなって葬儀が行われた日、
梨央ちゃんにも
一架からの手紙が渡され、
梨央ちゃんは真実を知った。
手紙を読んだ彼女は
「ホント…バカ…。」
そう言って泣きながら笑っていた。
なぁ、一架見てるか?
俺は研究員になって小説を書いた事。
梨央ちゃんと翔が幸せに暮らしてる事。
俺が勝手に小説にしたこと怒ってるか?
それとも、上手く書けてるって
褒めてくれるか?
…どっちにしろ
最後はあの真っ直ぐな瞳で
笑ってくれるんだろうな。
大きく息を吸って空を見上げると
頭の中に一架の笑顔が浮かんできた。
「…ふっ。」
思わず笑みを零した俺に
向かってくる小さな女の子。
「パパーーーっ!」
「架那(カナ)。迎えに来てくれたのか?」
「うん!!ママと一緒に!!
パパかっこよかったよーー!」
「そうか?ありがとう。」
抱き上げた架那が指差した方に見えるのは
優しく笑う俺の妻。
一架、俺、一架の願った通り
あったかい家族を作ってるよ。
俺は人のぬくもりなんて
一架がいなければ
一生知ることはなかったと思う。
一架と過ごした180日が俺を変えてくれた。
…ありがとう。本当に。
でも、1つ、叶えられない願いがある。
それは、一年に一回お前を思い出す事。
俺は、毎日一架と過ごした日々を
思い出すから。
これだけ、叶えてやれなかった事は許してほしい。
ってか許せ。
一架と過ごした日々は
俺にとっても宝物なんだから。
一架、もしいつかまた会えたなら
その時にちゃんと伝えるよ。
”俺は君と出逢えて本当に幸せです”
*fin*
応募部門【フリーテーマ】
~あらすじ~
中学生の時に”白花(ハッカ)病”という
珍しい病気にかかってしまった主人公の一架。
一架はその時にあと3、4年しか生きられないと
宣告されるも、高校を卒業する
という目標を胸に毎日を過ごしていた。
そんな高校2年生の夏、検査に行った病院の屋上で
冷たい目をした修也という同い年の男の子と出逢う。
一架は修也をほっとけなくて
なんとか彼を助けようと修也に付き纏っていた。
そんな一架を面倒くさいと思っていた修也は
偶然一架が病気であと少しの命だと知ってしまう。
それを知った修也は一架の
”願いを叶えて”という提案に乗り、
2人は一架の願いを叶えるために日々を過ごしていく。
そんな中で、家庭の事情で心を閉ざしていた修也が
病気に負けず、明るく真っ直ぐな一架に心を動かされ
段々と一架に惹かれていく。
しかし、一架の病気は2人の未来を
容赦なく邪魔していき…。
普通なら出逢う事のなかった他校生の
2人が迎える結末とは…?