木陰を走る。

炎天下のグラウンドを走るのとは違い、少しばかり涼しい風を感じる。

翠、ナナ。クラスや部活の仲間。

誰かが欠けても、今までの自分とは違う。

もう、誰も欠けてはならない。

そんなの、ダメだ。

二キロほどのジョギングコースを走り終えると、心地よい疲れと汗。それを一気にシャワーで洗い流す。こんな時は体を動かすに限る。

それでも心の奥にある小さな不安の塊は居残り続け、気を抜けばすぐにでも大きくなってしまいそうだった。

濡れた髪を拭きながら部屋でスマホの黒い画面を見つめる。

翠の声が聞きたい……でも、さすがに気まずい。そう感じているのは俺だけかもしれないけど。

数分迷ったが、思い切って翠に電話をする。このまま待っていたところで、何も解決はしないことは分かっていた。

バイトじゃなければいいけど。

『もしもし』

何度目かの呼び出し音が鳴った後、聞き慣れたいつもの翠の声。

『翠?よかった。バイトじゃなかったんだ』

『うん、どしたの?』

久しぶりだっていうのに、何も変わらない翠の反応。

『いや、何もないけど』
『うん』

特別用事があった訳でもない。あのケンカした日のことを謝ろうと考えていた訳でもなかったから、すんなりと言葉が出てこない。