知らない奴なのに自殺とか、なんでそんなこと言えるんだ?

俺には理解出来ない。

目を閉じてもはっきりと脳裏に浮かぶ「死」という文字に身体が震える。

少し前まで間違いなく存在していた彼女は、もうこの世にはいない。もしかしたら、彼女とはこれからどこかで出会っていたかもしれないのに……。

どういう感情を持ったらいいのかも分からなかった。鳴り止まないスマホを枕の下に押し込み、そのまま家を出た。

外は陽が傾き、暑さも幾分和らいでいるようだったが、それでもまとわりつくような湿気を振り払うように走り出す。

いつものジョギングコース。その緑道には気が生い茂り街中とはまた違う空気を感じる。

頭の中には翠の笑顔。

会いたい。

素直に、強くそう思っていた。

もし、亡くなっていたのが翠だったなら……。

気まずくなったまま二度と会えないなんて、そんなの耐えられない。

亡くなった米村さんには、そんな相手はいなかったのだろうか。

そして、次に浮かんだのはナナだった。

ナナは、誰だか分からないけれど。まさか米村さんがナナじゃないよな……まさかな。

あれからナナとは数回個人的にやり取りをした。

俺の『ありがとう』から始まった2人の会話。

最初に打つ時には、迷惑なんじゃないか、とかオレの勘違いなんじゃないとか、不安もあった。

それでもナナからは『こちらこそ、ありがとう』と返信があり、やっぱり送ってよかったと安心した。

ナナからお礼を言ってもらう理由が分からずそれを聞くと、『いつもあなたの呟きを見ると元気が出るから』そう言ってくれた。

ただの独りよがりの呟きが、誰かを元気にしているなんて思いもよらなかった。

嬉しくて、照れくさかった。