「カズー!ご飯」

母さんの呼ぶ声が聞こえ、ゆっくりとベッドから出てリビングへと向かう。

晩御飯は俺の好きなハンバーグだった。腹ペコは、気持ちにもよくないんだろう。お腹が満たされると少し気持ちが落ち着く。

我ながら単純だ。

とりあえず悩んでいることは奥にしまって、まだほとんど手を付けていない夏休みの宿題を開く。これも大きな悩みのひとつだけど。

授業がないだけで、結局勉強はしなきゃならない。夏休みってなんなんだ?

宿題のことを考えるとため息しか出ないけれど、とりあえず得意な理数系から片付けることにする。

薄いレースのカーテン越しにはギラギラの太陽の代わりに穏やかに光る月が見える。まだ、梅雨の晴れ間は続いている。

やはり、高校の宿題は中学のそれとはレベルが違う。悪戦苦闘しながらもキリのいいところまで終わらせると、窓の外に見えていた月は枠の外に姿を消していた。

調べ物をしていたタブレットの電源を切ろうとすると、SNSのアプリに新しい通知があることに気づく。

また誰かがくだらない投稿でもしてるんだろう。そう思いながらも指が画面をタップしていた。

ナナ……?

投稿していたのはナナだった。

『フワフワした気持ちは、始まりの予感』

そう書かれた一文が目に入る。

フワフワした気持ち?地に足がついていないとか、そんな感じ?

ナナは恋でもしてるんだろうか。

恋はきっと自分に自信を持たせてくれる。その分別の悩みが増えるだろうけど、いつも自信なさ気なナナだから恋はきっとチカラになるだろう。