「やるな、おまえ」

そう言った先輩はニヤリと俺に笑みを見せていて、ホッとする。

「さ、ランニングして帰るぞ」

「はい」

何事もなかったかのようにキャプテンの声でみんなは走り出す。

俺も体に着いた砂を払い走り出す。

ダラダラと走る同級生に追いつくと、そいつが俺の肩に手をかけからかうように言った。

「らしくねーな、何熱くなってんだよ」

らしくない?俺はいつだって本気なんだ。ダラダラとやってるお前らと一緒にすんな。

何も答える気にもならず、そいつの顔をちらりと見て、黙々と走り続けた。

辺りはすでに夕焼け色に染まっていた。

翠のことがあってから、自分の気持ちがなかなかコントロールできない。さっきだって、いつものように適当にかわしていたらよかったんだ。

帰り支度を終えてみんなは喋りながら駅へと向かう。けれど俺はその輪の中にすら入れないでいた。

どちらかといえばいつもその輪の中心にいたいと思う俺が、入る気にすら、ならなかった。

「熱くなんなよ」
「らしくねーな」

先輩や同級生の声が頭から離れてくれない。俺は、みんなにどんな風に思われているんだ?

空を見上げてると、赤紫色に染まっていた。闇への入り口のようだ。

そりゃ、そうだな。いつも俺は自分の本当の気持ちを閉じ込めて、周りに合わせている。

本当の俺なんて、誰も知らないんだ。


虹が描いたような、青い空が見たい。