「おい、2人とも落ち着けよ」

3年の先輩が見かねて割って入る。肩で息をしている2人を見て、なだめるように言った。

「一紫、んな熱くなんなよ。俺らもさ、たまには手抜きたくなるわけよ」

たまには?いつもだろ?

「でもそれじゃ、俺の練習になりません」

熱の冷めない俺を見て、わざとらしくらしく大きなため息をつく。

「わーったよ。じゃ、俺がホンキで蹴ってやる。取ってみろよ」

3年レギュラー、フォワード。なかなかの実力は持っている先輩だ。怒らせてしまったのは不本意だけど、相手にとって不足はない。

「お願いします」

ゴールへと向かい、腰を落とし相手の様子を伺う。

一対一のPK戦。

この先輩は確か、PKの時右に蹴る癖がある。

今回も右か?いや、苛立っているはずだから、わざと左にくる可能性もある。

どちらにくるか。

俺は賭けにでず、ボールを蹴る瞬間の相手を見て判断することを決める。

少しの助走を取り先輩が構える。

一歩、二歩……よし、右だ!

瞬時に判断した俺はボールから目を離すことなく右に跳ぶ。

ボールは思ってた通りかなりのスピードで右に飛んできた。

思い切り差し出した右手の先にボールは当たり、何とか軌道を変えることができた。

その瞬間、身体が地面に打ち付けられる。

おー!という騒めきが聞こえてくる。

まだ地面に倒れている俺に先輩が手を差し出してくれる。

その手を受けながら先輩の表情を伺う。まだ、怒っているだろうか。