「ああ、うん、もう大丈夫?」

虹はこないだと同じように真っ直ぐ肩のラインで揃えられた黒い髪を揺らす。

「うん、虹は?」

あの時具合が悪くて寝ていた虹を起こしてしまったのも気になっていた。

「私?……私は大丈夫」

「そっか、ならよかった」

化粧気はなく、翠の華やかさとは違うけれど、どことなく可愛らしい雰囲気を持っている、そんな印象を受ける。

「な、それ虹が描いてるの?」

彼女の姿に隠れるように置かれているイーゼルには、描きかけの絵が乗せられているようだった。

美術部員の描く絵だ、きっとうまいに違いない。

「ま、まだ描きかけだから」

恥ずかしいのか、せっかくの絵を裏返して見えないようにしてしまう虹。

「え、いいじゃん見せてよ」

「いや、ヘタクソだし……」

そんなやり取りを見て気を利かせてくれた虹の友達がクルリと絵を表にして俺に見せてくれる。

「ちょ、朱里!」

虹の慌てっぷりがちょっと可愛い。

「お、サンキュー」

そこには、フワリと浮いているような木製の船。背景には途中まで青い色が塗られていた。

「へぇ、やっぱ上手いもんだな。綺麗な青空だ」

「……えっ……」

思ったままを口にしただけだったのに、虹もその友達も驚いた顔を俺に向ける。

え、俺何か変なこと言ったかな……?

「ああ、うん。よく空って分かったね」

笑顔を見せてくれてホッとする。

「え?だって空飛ぶ船、だろ?」

「……うん、そう」

どちらが前で、どの方向を向いているのか分からない船。それは海ではなく、空を漂っているように見える。