「プハーっ。やっぱ暑いな」

みんなそれぞれ水分を補給したり汗を拭いたり着替えたりしている。

そんな木陰からふと見える教室に明かりが点いていた。美術室だ。

美術部が日曜に活動するなんて珍しいことだった。

あれ?あれは確か……。美術室に見える人影。見覚えのある真っ直ぐな黒髪。

虹?

この前技術の時間に指にトゲが刺さった時、保健室で手当てしてくれた隣のクラスの虹だった。

美術部だったんだ。

あの時のお礼を言いたくて、俺はその美術室の窓を叩く。

ードン、ドンー

振り向いた虹と、友達の2人は窓から見える俺に驚いた様子だった。戸惑っている表情の虹。もしかして俺のこと覚えてない?

それでも虹は足早に窓際まで来て、窓を開けてくれる。

「虹!美術部だったんだ!」

「ああ、うん。小椋くんは?」

よかった、覚えていてくれた。

「俺サッカー部、今ちょっと休憩してたらさ、虹の顔が見えて。あー涼しいな、教室は」

うだるような暑さの外に比べたら、教室の中はまるで季節が違うような空気だった。

「そっか、サッカー部なんだ」

「うん、キーパー」

授業で入る美術室とはまた違った印象だった。絵の具の匂いが鼻をかすめる。

「こないだはサンキュー!」

そう言いながらあのトゲが刺さっていた指を見せる。たいしたことはなかったが、丁寧に手当てしてくれた虹にお礼は言いたいと思っていた。