「随分と仲良しなんだな」

一度湧き上がった気持ちはもう抑えられそうになかった。こんな時もっと大人な男だったなら、冷静に対処できるのだろうか。

「は?別にそんなんじゃないよ」

眉間にシワをよせて、悪びれる様子すら見せない。

「耳元で囁くのが、普通かよ⁈」

だんだん大きくなる俺の声が、階段に響く。

「ああ。なんかね、中塚くん翠のこと好きみたいで」

「……」

だからなんだ?

「だから?だからあんなに嬉しそうにしてたのか?」

「してないし。ていうか、そんなことくらいで怒るんだ」

フッと顔の力を抜いた翠は、俺から視線を外す。

「そんなこと?彼氏なら怒るの当たり前だろ⁈」

翠の態度が、俺をさらにイライラさせる。

「なに?ヤキモチ?中塚くん、イケメンだもんね」

そう吐き出した翠は笑っているようにすら見えた。

そうだよ、ヤキモチだよ。悪いか?

「そりゃヤキモチ焼くだろ」

「なんか、意外」

いつもの上目遣いで俺を見て、翠は言った。

「え?」

「こんなので、ヤキモチとか普通焼く?」

ああ、そうか。

全身に入っていた力が抜ける。

初めて、俺と翠の間に温度差を感じた。いつも、俺と一緒にいたがる翠。優しい言葉を言うと喜ぶ翠。

「もう、いーわ」

そう一言だけ吐いて、翠を1人置いて階段を駆け下りる。

頭を撫でると目を細める翠。いつも俺の1番でいたがる翠。

全ては、俺のことが好きだからだと思っていた。