こんなことはしたくなかったが、翠と話している男子がやたら楽しそうに見えて、少しの間2人の様子をうかがっていた。

「えーっ?うそぉ?」

翠の高い声も、心なしか楽しそうに聞こえる。

なんか、気に食わねー。

翠!と声をかけようとした瞬間、その男子が翠の頭を自分の方に寄せ、耳元で何かを囁いた。

はぁ?近いよ、なんだよアイツ!

その囁きを聞いた翠はまた嬉しそうな声を上げ、男子の腕を掴んだ。

もう、我慢の限界だ。

「おい、翠っ!」

抑えていた気持ちが思いがけず大きな声となり、教室中の生徒が俺の方に振り向く。

でもそんなの構ってられなかった。

でも振り向いた翠は、ただ、俺の大きな声に驚いただけで。

「一紫!」

いつもと変わらない笑顔で俺の腕に絡んできた。さっきまであの野郎の腕を掴んでいた手だ。

俺以外の男子と仲良くしてる場面を見られたんだぞ?なんで慌てたりしないんだ?

「ちょっと来いよ」

「どしたの?」

「いいから」

みんなの目線を避けるために、あまり人が通らない北階段の踊り場へと翠の腕を引いて降りる。

「何よ?」

俺の強引な態度に何かを感じたのだろう、不満げな表情になる。

「さっきの野郎、誰だ?」

「さっきの?ああ、中塚くん?」

俺の言葉を聞いてますます不満げな翠に、俺のイライラも増してくる。

彼女が他の男子と仲良くしてるなんて、許せるか?