暑い暑いと言いながら、くだらない話をして。笑い合って。

「夏休みさ、あの新しくできたパンケーキ食べに行こうよ」

「うん、いいね」

「でも、先にこの絵仕上げたいから」

そう言って朱里はキャンバスを私に見せる。

「あーうん」

「一番最初に虹に見せたいから……できたらすぐに連絡するね」

「……分かった」

朱里は、誰かに見せたくて絵を描いているわけじゃない。言い方は悪いけど、自己満足の世界で、彼女は筆を持つ。

そんな朱里が、私に見せたい絵とはいったいどんな絵なんだろう。

「あ、やっぱり自画像?」

「あはは、かもね」

そう笑った彼女の笑顔は自信に満ちていて、より、その出来上がりが楽しみになる。

「じゃね、またね」

「うん、またね〜」

いつもの曲がり角で朱里と別れ、家路を急ぐ。夕焼けとはいえ暑さで肌がジリジリと焼けそうだ。

「ただいまぁ」

エアコンの効いたリビングにホッとため息が出る。

「おかえり、珍しいね。絵持って帰るなんて」

「先生が出張で、今月いっぱい部活休みだって」

「あらそう。絵描くのもいいけど、夏休みの宿題もさっさと終わらせなさいよ」

「あーはいはい」

どうして親は、何よりも勉強をさせたがるんだろう。そりゃ、出来ないよりはできた方がいいのは分かるけど。

適当な返事をして部屋へ入り、モワッとした空気を入れ替えるために窓を開ける。