「それにしても、虹がイケメンに興味があるなんて、意外なんだけど」

大きなキャンバスを引きずるように、でも丁寧に運びながら朱里は言う。

「いや、別にイケメンだからって気になってるわけじゃないよ。まあ、イケメンなのは認めるけど」

「ふふ、まあね」

「なによ、からかわないでよ」

「あはは、ごめん。なんか嬉しくてさ」

え?なんで朱里が嬉しいの?

「どうして?」

「だってさ。人に興味がない虹がさぁ、恋だよ、恋」

人に興味がないって……そんな風に思われてたんだ。まあ、仕方ないけど。

「好きな人は出来たことあるじゃん、中学の時の浜田先輩とか」

「あーいたね。彼女できちゃったやつ」

「うん」

でもね……そう言って私の目を見た朱里の笑顔は、夕陽に照らされてオレンジ色に輝いていて。

「今回の虹は、なんか違う気がする」

「そう?」

「うん。どこが?て聞かれても困るけど、なんとなく」

「なにそれ」

朱里の言っていることは、なんとなく理解できた。それは私自身も感じていたことで。

まだ始まってもいない恋だからあまり深く考えないように避けてきたけれど、朱里に言われてそれは確信に変わる。

地元の駅の改札を出ると、そこにはいつもと変わらない風景。

隣には笑っている朱里。

みんなのように笑いあえるたくさんの仲間は、私にはいない。SNSでイイねがもらえるような出来事は何もない。

それでもこんな瞬間、私の幸せはここにある、そう確信できる。