「虹」

「ん?」

「それはきっと、恋が始まる予感だよ」

「始まる、予感?」

なんとも分かりにくい、曖昧な表現にちょっと笑ってしまう。

「うん、うまく言えないけど、そんな感じ。まだ始まってはないけど、始まりそう、みたいな」

「なんだそれ……」

2人の目は小椋くんの姿を追っている。きっと、彼にとって私なんて顔をみたら思い出す、それくらいの存在だ。

「ひとつだけ言えるのは……」

「何?」

クルリと私の方へ体を向けた朱里。

「あの絵を、空だと分かってくれた彼を、今は信じていいと思う」

「……うん」

たまたまかもしれない。

でも、どう見ても海にしか見えない私の描きかけの絵を、自信満々に空だと言ってくれた。

分かってくれてるとまでは思わない。でも、素直に嬉しかった。

「とにかく、今は自分の気持ちに正直に。それだけ言っておく」

それだけって……もう充分色々言われたけど。

「うん……」

自分の気持ちに正直に、か。

簡単そうで、それはきっと私にとっては難しいことで。でも久しぶりに感じるこんな気持ちを、コントロールなんてできるわけもなく。

「ありがとうね、朱里」

でも朱里のおかげで、自分の気持ちと向き合うことができた。

もう一度、笑顔の小椋くんを見る。眩しい青空が、よく似合っている。