赤い練習着の大きな背中が遠ざかって行くのを見つめていると。待ってましたとばかりに朱里に捕まれ、強引に椅子に座らされる。

ほら、きた。朱里刑事の取り調べが始まる。

「さ、全て吐いてもらおうか」

その大きな目は私を捉えて離さない。この状況から逃れるすべはないことを、残念ながら私は知っている。

仕方ない、覚悟を決めて私は小椋くんとの出会いを話し始める。

「まだちゃんと話したこともないんだよ。会ったのすら、2回目だし。朱里が考えてるようなんじゃないよ」

正直に、そう前置きをする。朱里に適当なことを言ったところで見破られるのは目に見えているから。

「うん。で、誰?」

ああ、不安だ。ちゃんと伝わる自信がない。朱里の目はキラキラと輝いていて、獲物を狙うハンターさながらだ。

「小椋くん。前に保健室で会って」

「うん、サッカー部だってね。キーパーか、いいじゃん」

「みたいだね」

グイグイ前のめりの朱里に対して、私の腰はどんどん引けていく。2人きりだから余計に遠慮がないんだろう。

「で……どう思ってんの?」

ほらきた、結構早めにきた。

「どうもこうもないよ。どんな人かも知らないし。まあ、イケメンだとは思うけど」

「ふーん。まあ、でもちょっと気にはなってるって感じ?」

鋭い朱里は、やっぱり刑事に向いてるんじゃないかと思う。

「……いや……気にはなるけど。私に話しかけてくるなんてきっと、単なる暇つぶしだろうし」

「あー、でた」

私の言葉にあからさまに大きなため息を吐く朱里。

ヤバい、ネガティブ発言してしまった。朱里の1番嫌いなやつ。