「な、それ虹が描いてるの?」

その好奇心の視線は、私の描きかけのキャンバスの上で止まり指差して言うもんだから、慌てて裏返す。

「ま、まだ描きかけだから」

ああ、もうこの場から消えてしまいたい。なんで声なんてかけてくるの?変な汗が出てくる。

「え、いいじゃん見せてよ」

「いや、ヘタクソだし……」

頑なに拒否する私をまどろっこしく思ったのだろう朱里が、裏返しのキャンバスをクルリと表に向け、ご丁寧に小椋くんから見える位置にズラす。

「ちょ、朱里!」

「お、サンキュー」

思わず朱里の肩を叩くと、私に向けられたその表情はまるで取り調べをしている刑事のように鋭く、背中にスワッと冷たい風が吹く。

これは後で面倒なパターンだ。

「へぇ、やっぱ上手いもんだな。綺麗な青空だ」

「……えっ……」

一瞬、小椋くんが何を言っているのか分からなくなった。

今度は朱里が私の脇腹を小突く。

「ああ、うん。よく空って分かったね」

もう、描いてる私でさえ海に見えてきたっていうのに。上手いと褒められたことよりも、空って分かってくれたことが、嬉しい。

「え?だって空飛ぶ船、だろ?」

「……うん、そう」

美術部員以外に私の絵を見てもらうなんて、琥太郎くらいだ。いつも素直すぎる感想をくれる。

空飛ぶ船……か、悪くないな。

「完成したらまた見せてな、じゃ」

そう、笑顔を残してまたグラウンドへと走って行く。ドキドキの緊張はまだ続いているけど、心がホワっと暖かくなる、またあのフワフワした気持ちを感じていた。