まあ、仕方ない。海でもなんでもいいんだけど。色々な色の気持ちの中を、船に乗って舵を切っている自分。そんなイメージだ。

これから背景は青空から夕焼け空に、そして夜との狭間にある紫。そして深夜の黒。そんな移り変わりを見たらきっと空だと思ってもらえるだろう。

ードン、ドンー

2人だけの静かな部屋にグラウンド側の窓が叩かれる音が聞こえ、2人同時に振り向く。どうせまた琥太郎だろうという、ゆるい気持ちで。

ところが、その窓から青空をバックに立ちこちらを覗いている笑顔は琥太郎ではなかった。

「お、小椋くん⁈」

あの、保健室で見た笑顔が、そこにあった。

「え?誰?」

驚きのあまり朱里がそんなことを言っているのも耳に入らず、足が少しもつれてしまいながら慌てて窓を開ける。

笑顔と同時に入り込む外の熱い熱気。

「虹!美術部だったんだ!」

「ああ、うん。小椋くんは?」

あの日と同じ、優しい低い声。私の名前も顔も、覚えていてくれた。嬉しさと緊張でドキドキが止まらない。

「俺サッカー部、今ちょっと休憩してたらさ、虹の顔が見えて。あー涼しいな、教室は」

そう言いながら教室を覗き込む彼は真っ黒に日焼けして汗とお日様の匂いがした。

「そっか、サッカー部なんだ」

「うん、キーパー」

そう言いながらキョロキョロと部屋を見渡す。物怖じしない、好奇心旺盛な性格、そう感じる。

「こないだはサンキュー!」

そう言いながらあのトゲが刺さっていた指を見せる。

「ああ、うん、もう大丈夫?」

「うん、虹は?」

「私?……私は大丈夫」

「そっか、ならよかった」

もしかして心配してくれてたのかな……。

そして私は背後から朱里の視線を痛いほど感じていた。