あまり感じたことのない、落ち着かない気持ち。それは予想以上に私の心に居座り続けた。

こんな時は、無心に筆を走らせるしかない。

スケッチブックの真新しい真っ白なページ。まずは下書きから。

迷わず縦置きにしたが、少し考えて横向に置き直す。

他の女子部員たちは、新しくできたパンケーキ屋の話しに夢中だった。私だって美味しいものに興味がないわけじゃない。

朱里が誘ってくれればきっと食べに行くだろう。ただ、それ以上に絵を描くことが好きなだけだ。

イメージはできている。

移り変わる空の色。それはコロコロと変わる人の気持ち、自分の気持ち。

その中を彷徨う私……さまよい歩くのは苦しいだけだ。色々な気持ちの渦の中で右往左往しているのが眼に浮かぶ。

変わり続ける気持ちの中で、上手く舵をとることができたらいいのに。そう、船を動かす舵のように……。

鉛筆は、ちょうどスケッチブックの真ん中。思いに任せて手を動かす。そこには小さな船。船長は、私。

「調子良さそうだね」

不意に声をかけられてビックリする。

「そう?」

「うん、虹が集中してる時って前のめりで鼻が膨らむから」

「は、鼻?」

慌てて自分の鼻をつまんでみる。

「あはは」

「ちょっと!」

分かっている。

朱里が集中している私に話しかけてくる時は、私に力が入りすぎているとき。肩の力、抜いて。そう彼女の笑顔が教えてくれる。

静かに深呼吸をして、いったん鉛筆を置いて外を眺める。

分厚い雲に隠れている空は今、いったいどんな色をしているのだろう。