「虹、お疲れ!」

球技大会も終わり、1人校庭の隅にある水道場で少し赤く腫れている腕を冷やしていた。

みんなはきっと、更衣室でキャッキャ言いながらいい匂いのする汗取りシートやらなんやらで汗を流しているんだろう。

私はどうも、あの匂いが苦手で。かと言って汗臭いのもなんなので、こうやって原始的な方法でいつも汗を拭っている。

私がここにいることを知っているのは、この2人しかいないだろう。

「お疲れ、朱里、琥太郎!」
「おう」

そう言って私に冷たい水を渡してくれるのは、私たちと同じ中学で朱里の幼馴染、田部 琥太郎(たべ こたろう)だ。

「ありがとう」

笑顔も一緒に受け取る。

「どうだった?3組のバレー」

白い肌が、今日の晴天のせいで少し赤く焼けている。そんなことを気にしている様子もない朱里が私の隣の水道で手を洗いながら聞いてくる。

その白い肌からはもう、汗を拭いとった後のいい匂いがするのに。とっくに手だって洗ってるはずなのに。

きっと私に合わせてくれているのは分かっている。でも、いつも私は気づかないフリ。

どうせ言ったところで、朱里が聞いてくれるわけもない。そんなことないよ、そう言うに決まってる。