「さ、休み時間終わるから戻らなきゃ。おまえは?まだ寝とく?」

私が寝ていたベッドを指差す。

そうだ、私は頭痛で寝てたんだった。なんだかテンパってしまって、頭痛なんてもう吹っ飛んでいた。

「ううん、もう大丈夫だから私も戻る」

「そっか……じゃな、また」

そう言って出て行こうとする彼を、待ってと引き止める。

「名簿、書かないと」

先生に言われていた来室名簿を思い出したのだ。

「あ?名簿?」

ちょっとめんどくさそうに返事をする彼。

あ……こんなのみんないちいち書かないのかな、真面目すぎとか思われたかな。

「先生に書いてって言われて……」

自信がないのが自分でも分かるほどの小さな声しか出なかった。

「え?そうなんだ、知らなかった」

「あ、うん」

意外な素直な反応にホッとし、私から先に名簿に名前を書き始める。そして無言でペンを彼に渡す。

「3組か……飯倉……にじ?」

すぐ上に書かれている私の名前。

「あ、えっと。にじって書いてこうって読み、ます」

やだ、なんで敬語?私の名前なんてどうでもいいんだけど。

「へぇ、こう!いいね、なんか幸せな名前!」

「え、あ、うん。ありがと」

幸せな、名前か。あんまり考えたことなかったな。確かに、虹を見たらみんな嬉しそうだし。

素直な気持ちを自分の言葉で表現できる彼はきっと、私みたいにグダグダと悩んだりしないんだろうな。

「隣のクラスだな」

自分の名前を書き終えた彼は、少ししゃがんで目線を私に合わせ言った。

「俺、小椋 一紫。いちにムラサキで、カズシ。よろしくな」