「先、帰るね」

ひとつの作品を書き終わり、すぐに次に取り掛かる気持ちにもなれなかった。ならばもう、ここでやることはない。

「うん。私はもうちょっとやってから帰る」

「うん、じゃあねー」

夕陽を背負って笑顔を見せる朱里は、どうやら本気で今の作品に力を入れているようだ。

運動部の掛け声は、くつ箱へと向かうにつれて小さくなっていき、しんとした廊下はなんだか学校じゃないみたいだった。

1人は嫌いじゃない。誰にも気兼ねせず、自分のペースで動くことができるのは楽だ。

駅までの道も、いつもとは違う時間だからか人通りも少なく歩きやすい。朝には学生で溢れているコンビニの店員さんも暇そうにレジに立つ。

平和だな……。

空いている電車の座席に座り、カバンからタブレットを取り出す。

SNSのアプリには何のお知らせもない。

何度か投稿した呟きには全てイチからのイイねがつけられている。イチの呟きは、あれから少し上を向いている感じがしてホッとしている。

『達成感と安堵感。1人も気楽でいい。次も楽しみたい』

今感じていることを並べただけ。誰にも理解できないだろう言葉も、私にはとても大切。

きっと数ヶ月後の私が見ても何のことだか分からないかもしれないけど。それでも今の私にとっては自分を見つめるために必要な作業。

誰に対してでもない、自分へのメッセージ。

念のため、イチの投稿がないかをチェックしてタブレットを閉じる。