「できた」

軽やかな声と、コトリ、と筆を置く音が響く。

仕上げに入っていた作品。気持ちの乱気流から、途中で投げ出したくなるように迷走していたが、なんとかまとまり仕上げることができた。

それは、大きな複雑な青い丸から、いくつもの赤い花が飛び出しているかのように散らばる作品。周りには色々な色の鮮やかな水玉模様。

気持ちの複雑さと、上書きされた華やかさ、鮮やかさ。

閉じ込められた醜い感情は、自分によって、他人によって、違う色に塗り替えられる。本当の気持ちなんて、もうなんだか分からなくなる。

ま、こんなもんかな。

「お、珍しく華やかだね」

私が作品に込めた感情など知るわけもない、上部だけの感想。きっと、人と接する時だって同じ。

出来上がった作品を棚の上に立てかけていると、お手洗いから朱里が戻ってきた。

「お?できた?」

「うん、なんとか」

マジマジと見つめられる絵は、どことなく恥ずかしげで誇らしげで。まるで自分自身が見られている気になる。

「んー……なかなか複雑。虹にしては、ちょっと迷ってる感じがするね。でも、私は好き」

やっぱり、朱里にはお見通しだ。

「あはは、なんだかね」

ちゃんと見て、ちゃんと分かってくれたことに、嬉しくもあり恥ずかしくもある。

隣には出来上がった朱里のサンマの絵。

「これ、題名は?」
「サンマの塩焼き」
「……だよね」