「うまっ⁈」

口に入れた瞬間に溶ける甘さ控え目のクリームに、フワフワの食感のパンケーキ。

パンケーキは軽い塩味で甘みを抑えているので、くどくなくベリーの酸味も生きる。

「うん、さいこー!ヤバイねこれ」

「半分食べたら交換な」

「うん!」

美味しい食べ物、翠の幸せそうな笑顔。こんなに幸せなのに、幸せだな、と思えているのに。

胸の奥のざわつきは、もうそこに居座る覚悟を決めたようにくすぶり続けている。

俺はいつもそれに蓋をして、ごまかして。自分がどうしたいのかすら分からなくなっている。

「どうかした?」

最後の一口を名残り惜しそうにフォークに丁寧に刺しながら翠が俺に顔を向ける。

「味わってんだよ」

ニヤリと笑って見せると、自然に翠も笑顔になり、パンケーキを頬張る。

大丈夫、大丈夫。

俺は、俺らしくいればいいんだ。ただ、それだけでいいんだ。

パンケーキを堪能した俺らが外へ出ると、辺りはもう薄暗く街灯も点り始めていた。

「送ってくよ」

そう言いながら翠の華奢な手を取る。

まだ出会ったばかり。

「いいの?」

「当たり前だ」

俺の言葉に嬉しそうに笑う翠が、隣にいる。

その握られた手の温もりが、今の俺にとっては最高の幸せで。

何も考えず悩まず、そんな暖かみだけを信じていればいいんだ。