「なあ、アイツだよ」

ぼんやりと見つめていた奥本くんの前に立つ小柄な男子の背中が急に振り向くからびっくりする。

「あ?」

めんどくさそうな返事、奥本くんも本当は球技大会イヤなんじゃないのかな。

「1組の小岳 翠(こたけ すい)と付き合ってるって奴」

「ああ、へえ、アイツか」

アイツ、とは。どうやら選手宣誓をした彼のことらしい。

1組の小岳さん、はもちろん知らないが、2人の会話からおそらく男子から人気の女子なのだろう。

ああ、なんてくだらない。

球技大会が面倒な奥本くんも、小岳さんの彼には興味津々らしく、頭を動かして彼の姿を追っている。

そんなんだから、小岳さんのハートを射止められないんじゃないのか?

まあ、私がそんなことを言えた義理じゃないことくらい分かっているけど。

「虹(こう)はもう少し男子に興味持った方がいいよ」同じ中学の米村 朱里(よねむら しゅり)は口ぐせのように私に言う。

大きなお世話だよ。なんて、心の中では悪態ついているけど。

本当は、分かってる。

私がクラスの中では浮いた存在だってことも、今どきの女子高生が楽しいと思うことには全く興味を持てないことも。


本当は分かってるんだから。