「そういや、こいつの彼女見た?」

また別の先輩が言う。

「見た見た!超可愛くね?ヤバイぜあれ。しかも向こうから告ってきたんだろ?」

「まあ、そうすね」

胸の奥でくすぶる炎を、懸命に消そうとする。

「はぁーっ!やっぱイケメンは違うよな。なぁ、もうチューしたか?」

「いやいや、それは……」

「お、その照れ方は、もう済み、だな?」

周り中のキーパーが、オレを囲みそれぞれに軽く体当たりしてくる。

「やめろって〜」

デカくて汗臭い体に囲まれて、なんだかもう、どうでもよくなってきた。

「そんなにオレとチューしたいならしてやろうか?」

同級生の顔に尖らせた唇をわざとらしく近づける。さすがに先輩にはできないけど。

「ギャーやめろーっ!」

周りからドッと笑いが起きる。

ほら、こんな会話の時には抜群のチームワークを発揮するんだ。やればできる、ていうか、やる気にさえなればいいチームになるはずなんだ。

どうでもいい、くだらない話にしか興味がない。何かに一生懸命になるのはカッコ悪い。

いつから、こんな雰囲気になってしまったんだろう。

もちろんオレだって、くだらない話は好きだしみんなで笑い合うことは最高の癒しになる。

「土曜の試合会場、1時間くらいかかるらしいぜ。帰りどっかカラオケでもねーかな」

「マジ?そりゃカラオケでもしないとやってらんねーな」

そんな会話が聞こえてくる。

「集合!」

コーチのやたらデカい声に反応し、みんな小走りで駆け出す。