「おら行くぞ」

ピーッ!

笛の合図で腰を落として構える。どちらへも跳べるように。

コーチの目線、蹴り出す時の足や体の角度、もちろんボールも。全てから目を離さずに跳ぶ方向を判断する。

右だ。

思った通り右に飛んできたボールは真横に飛んだ俺の指先に当たって方向を変える。

なんとかそれを3回繰り返し、一度はボールには触れられなかったが、反応はできた。腕立て伏せは免れ、ふぅ、と息を吐き列へ戻る。

「おまえ、勘がいいな」

「そうすか?」

3回とも外し腕立て伏せを終えた先輩がオレに言う。

いや、勘じゃねーし。

試合じゃないんだから、蹴る側だって演技なんてしない。ちゃんと見てればある程度分かるはず。

小一時間ほど同じ練習をすると、さすがにコーチもみんなもバテてくる。オレは腕立て伏せをさせられたのは1回だけですんだ。

「いったん、休憩」

「ありがとう、ございます」

「おまえ、なかなか良かったぞ」

コーチがオレの肩を叩いて行く。

「あ、ありがとうございます」

みんなと一緒に小走りに校舎の軒下に向かい、影に入り水分を取る。

「はーっ!疲れたな」

みんな口々に愚痴る。確かに、疲れたけれど、いい練習にはなったと思う。

久しぶりの外部コーチの厳しい練習にオレは手ごたえを感じ、気分が上がっていた。

そういえば褒められるのも久しぶりだな。