「今日はごめん、無理だ。また来週休みあるからパンケーキはその時な。気をつけて帰れよ。夜電話するから」

めんどくせーと思いながらも、キツく言えばもっと面倒なことになるのは分かってるから。彼女が喜びそうな言葉を並べる。

そして、そのふわふわした茶色がかった髪にそっと手を乗せる。

「んー。もう、分かったよ!絶対電話してよ!」

「おう」

諦めた彼女はバイバイと女神のような笑顔を見せてからオレに背を向けて、友達の方に走って行く。

「相変わらずラブラブですな」

同じサッカー部の奴が通りすがりにからかって行く。

「羨ましいよ、本当」

隣を歩く同じ中学で野球部の嘉山 透(かやま とおる)までそんなことを言い出す。

「なんだよ、それ」

「だってさ、学年一の美女だぜ。小岳だぜ。羨ましく思わない奴なんているか?」

「まあな」

そう言われると、悪い気はしない。
もちろん翠のことは、好きだ。可愛いと思うし、一緒にいても楽しい。

ただ、時々こんな風に面倒になるだけだ。彼女なんて、みんなこんなもんだろ。

「のろけんなよ」

オレより少し背の低い短髪が、体当たりしてくる。不意の出来事によろけてしまう。

「やめろよ」

部活のトレーニング、サボりすぎだな。こんなことでよろけるなんて。体幹を鍛えなおさないと。