「虹、帰ろ!」

「うん」

結局私の絵はまだ仕上がらず。

可愛らしさ満開の赤い花がよく目立つ、よく分からない作品になっている。

なんだかな……。筆が進まないわけではないのに。うまく表現できないでいる。まるで、色とりどりのへんな形の迷路に迷い込んだかのように。

「あれ、珍しいね。花なんて」

棚に立てかけた私の作品を指して朱里は言う。

「うん、そうだね。最初はハートだったんだけど……なんかね」

その次は真っ赤な眼球だけどね。

「ふーん……なんか迷いを感じるね、虹らしくない」

「んー。そだね」

ピシャリと言い当てられ、何も言えずに苦笑い。さすが、朱里。そりゃ一緒にいて心地よいはずだ。

私が隣にいるよ、とばかりに私のヘンテコな絵の横に置かれた朱里の絵には、やっぱり魚。

彩り鮮やかな熱帯魚でもなく、もちろん可愛らしいイルカでもなく。

「さ、さんま?」
「お、正解」

そこには美味しそうに焼かれ焦げ目のついたサンマが。

「聞いても、いい?」
「なんなりと」
「なぜに、サンマ?」
「食べたいから」
「…………」

やっぱり。

そうだよね、今の季節には食べられないからね、って、おい。

今をときめくJKが描く絵が、サンマ?

「あはは!」
「えへへ」

まあ、なんでもいいや。朱里の絵は私をいつも笑顔にしてくれる。

「確かに、美味しそうだ」
「でしょ?」

早く、秋にならないかな。