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「虹〜行くよ〜」
「うん、今いく」

放課後、迎えに来てくれた朱里。
慌てて必要なものをカバンに詰める。

「虹、バイバイ」

教室を出ようとする私に木下さんが手を振ってくれる。

「バイバイ」

薄い笑顔を浮かべ、私も手を振る。会話は、挨拶だけ。会話って言わないか。それも近くの席の数人が、気づいた時だけ。

そんなんなら、もうしてくれなくてもいいのに。なんて思ったらダメだよね。

「ほら、行くよ」

「うん、お待たせ」

朱里と並んで廊下を歩いていると。前から歩いてきた女子と肩がぶつかる。

「あ……ごめ……」

「ちょっと!どこ見てんの?」

私より少しだけ高いところから、睨みつけるような目線。

「あ、えと」

ぶつかってきたのはそっちでしょ?なんていえるわけもない。

ふいっと顔をそらし、何ごともなかったかのように歩き出す彼女の後ろ姿を密かににらみ返す。

「ちょっと、何あれ?感じ悪ぅ」
「ね、やな感じ」

「あの子、1組の小岳 翠、知ってる?」
「え?いや」

小岳 翠……どっかで聞いたような。

「スゴイ可愛いしスタイルも抜群なんだけど、めっちゃ性格悪いってウワサ」

確かに、チラッと睨まれただけだけど、その美貌には私でも気づいた。

「ふーん」

「ま、虹は興味ないか」

「あはは」

せっかくあれだけ可愛いのに、もったいないな。ニコニコしてたらいいのに。