小椋くんの真剣勝負。

そんな試合が見られるなんて夢みたいだ。

空、サッカーやっててくれて本当にありがとう。

「そうだ虹、あの空の絵今度見せてくれよ」

空の絵。私が描いた空の絵。

言われて見上げた空は、眩しいほどの濃い空色で。

「……うん」

あの絵は、私にとって特別な絵になってしまった。

朱里が隣にいた最後の絵。

もしまた筆を握れる日が来たとしても、朱里がいた頃のような絵はもう描くことはできないだろう。

「まだ、描けないのか?」

優しく、寄り添うように。

再び見上げた空には小さな雲が浮かんでいる。

「……」

「いや、無理はしなくていいと思う。ただきっと、米村さんも虹には絵を描いてほしいと思ってるんじゃないかな」

「朱里が?」

自然と2人の目線は空へ。

そこに朱里がいるのかどうかは分からないけど。

きっと今の私の状況を見てヤキモキしてるんだろうな。

「うん。もちろん俺もそう思ってるけど」

「うん。ありがとう」

朱里ーー。

小岳さんとのこと、イチ。

急な展開に気持ちがついていかないよ。

こんな時、朱里がいたら何て言うかな。

『チャンスじゃん!もっと自分をアピールしな!』

なんてね。

すん、と鳴らした鼻の奥がツンと痛い。

「大丈夫だって」

小椋くんがそう言うと、本当に大丈夫な気がする。

「ほら、行くぜ」

「おう。虹何食いたい?」

「みんなに任せるよ」

「じゃ、ガッツリ牛丼になるよ」

「え……」

「あはは」

ねえ、朱里。

私今、自然に笑えてるよ。