「いやいいんだ、ごめん。黙っててくれって頼んだの俺なんだ」

「……え?」

なんでそこまでして……?

「翠にこの前の学食でのこと何か言われたんだろ?」

「あ……」

そうか、小岳さんが話したのかな。

「ごめんな、あいつキツい言い方しただろ?」

「ううん、大丈夫だよ」

「熱まで出したのに……?」

何もかもお見通しだ。やっぱり小椋くんには敵わない。

「……」

「本当にごめん、悪いのは俺なのに」

「そんなことない、私が断ればよかったんだし」

フッと、小椋くんの力が抜けたように感じたのは気のせいだろうか。

断りきれなかった私の気持ちまで見透かされていたらどうしよう。

無言で首を横に振る小椋くん。

「……翠と、別れた」

丘の上から秋の空気を連れてくるように風が吹き、私の髪をなびかせる。

思わず無言で小椋くんの顔を見つめる。

まだキャッチボールを続けている2人に目を細めながら前を見据えている。

「……嘘……」

まさか……私なんかにヤキモチ焼くほど仲が良かったんじゃないの?

「はは、本当だよ」

まともに恋愛をしたことがない私には小椋くんの気持ちが理解できるわけじゃないけど。

その表情は思いがけず清々しかった。

「なんで?」

別れるといったら、心変わり?え?まさか浮気?

「んー……簡単に言えば価値観の違い、かな。あ、別にあの学食のことがあったからじゃないからな」

「うん……」

私せい、だなんて。そんなおこがましいことこれっぽっちも考えなかった。