「そうだよなー。おまえもたまにはいいこと言うな」

俺の、気持ちか。

翠のどこを好きとか、考えたこともなかった。

俺がレギュラー取れたって報告したら喜んでくれた翠。信じたい気持ちはある。

「たまにじゃねーよ、いつもだよ」

「あー、いつもの親父ギャグな」
「は?」
「あはは!」

透がお見舞いにしてきたぐーパンチをいつものようにナイスセーブする。

「ありがとな、透」

やっぱり話し聞いてくれる仲間って必要だと痛感した。

「いや……そうだ。一紫さ、来週の模試終わったあと暇か?」

「あ?模試?そんなんあったか?」

こないた受験が終わったばっかりだっていうのに、また模試?

「木曜だよ。模試終わったら一斉下校らしいからさ、鼓太郎誘ってんだけど。おまえも一緒にどうだ?」

「ああ、うん。空けとく。鼓太郎どうなんだ?」

人の心配してる場合じゃないのかもしれないけど、やっぱり虹や鼓太郎のことは気にかかる。

「たまに会ってるけど……俺と会ってる時はもう、いつもの鼓太郎だよ。先生とも話して、テスト前になったら特別補講するからテスト明けくらいから完全復帰できそうかな、って言ってる」

「そっか、それならよかった。やっぱり、ちょっとしたきっかけなんだろうな、そういうのって」

「ん、そう。先生もさすがに無理には来いって言えないだろうし、補講から徐々に慣らしていったらいいんじゃないかな」

「うん、だな」

亡くなった米村さんのことを忘れてしまうわけではない。それでもやっぱり彼自身にとって、いつまでも同じ場所に留まっているわけにはいかない。

その一歩を踏み出す、ほんの少しの手助けくらいならきっと俺たちにだってできるだろう。