「だよな」

すん、と鼻を鳴らして俺もまた地面を見つめる。

「そりゃ、一紫が怒るのも当然だよ。ただのクラスメイトの腕掴んだりするか?普通?」

「まあな」

鳥が羽ばたく音がして、2人同時に切り取られた空を見上げる。

その狭い空間には鳥の姿は見えなかった。きっともう広い空へと飛んで行ってしまったのだろう。

「そもそもおまえ、何で翠ちゃんと付き合ってんの?」

空を見上げたまま、透が言う。

「えっ?……そりゃ好きだから」

「どこが好きなんだ?顔か?」

翠の好きなところ……?

容姿はもちろんパーフェクトだ。そして……。

「……そうだな。俺のことを好きでいてくれて、優しくて……」

「うん……あとは?」

「あと……」

あと……。

言葉が出てこなかった。

翠のことを可愛いと思う瞬間はたくさんある。でも、好きだと思う瞬間ってなると。

「まずはそこからなんじゃねーの?翠ちゃんの気持ちがどうよりも、まず一紫、おまえの気持ちだろ」

真っ直ぐに俺を見据えてそう言う透は、いつものふざけてる透とは全然違った。

「俺の気持ち?」

「そうだよ。今回みたいなことがあって、もしかしたら翠ちゃんは自分のことそんなに想ってないんじゃないかって考えてるんだろうけどさ」

「うん」

座っているのに飽きたのか、足が痛くなったのか。その場で立ち上がり背伸びをする透。

「おまえが、これからも翠ちゃんと一緒にいたいと思うのか。今回みたいなことがまたあるかもしれない、それでも翠ちゃんを好きでいられるのか」

少しだけ隙間から差し込む光が壁に模様をつける。

「……」

「それが大事だと思うんだけどな」

また鳥が羽ばたく音が聞こえる。でももう2人は空を見上げることはない。

ニヤリとドヤ顔を見せる透に、俺も思わず笑みを浮かべる。