「で……何かあった?」

透が切り出す。

「ああ、ちょっとな」

「珍しく乱れてんな」

「はは、別に珍しくねーよ」

何だかんだ言っていつも乱れてる気がする。

「彼女か?部活か?」

「……翠」

「そっちか……そっちは俺じゃ力不足かもなー」

なんて自虐的に笑うけど、決して逃げてるわけじゃない。

俺だって解決策があるなんて期待しちゃいない、ただ聞いてもらいたいだけだ。透もそれを分かって言っている。

「さっき、音楽室行くとき……」

翠を悪く言うつもりはない。翠に、俺を裏切るとかわざと焼きもち焼かせるとかそんな気持ちがないことは前回の時に分かっているから。

ただ、ほんのちょっとの気持ちの違いなんだ。

だから、透にも事実だけをまず話す。

ただ、透が俺と同じ状況になった時どう感じるのか、それを知りたいだけだ。

「……てことだ」

一気に話したら喉が渇いて、お茶を飲んでため息を吐く。

透は俺が話している間、弁当を口に運びながら適当な相槌を打っていた。

「んー……」

相変わらずの早食いでいつのまにか弁当を平らげている透は、そう唸ったまま視線を地面に落としてしまった。

その間に俺は残りの弁当をかっ込んでお茶で流し込む。

「……ないな」

そう一言放った透はまた、地面を見つめたまま黙ってしまう。

ないな。その一言で、もう充分伝わった。