ーー

「もぉー!またそれ?」
「あはは」

2人の楽しそうな声に体が固まる。

休み時間、移動するついでに翠のクラスを覗く。

またあの男だ……。

翠と仲よさそうに話をしているのは、またあの男子だった。名前なんかおぼえていやしないけど。

俺に気づく様子のない翠に背を向け音楽室へと急ぐ。

なんなんだ、あれ。

翠の手は、またアイツの腕を掴んでいた。

「クッソ……」

思わず蹴った音楽室のドアが、ガタンと大きな音を立てる。

「あらあら、ドアはボールじゃありませんよ」

わざとらしく俺の背中を叩くのは透だった。音楽の時間は一緒になること忘れていた。

「るせぇ」

俺の中で小さく巻いていた渦が、吹き込んできた熱風により一気に膨れ上がりまるで旋風のようだった。

「珍しくご立腹だな」

茶化すようにも心配しているようにも取れる言葉。

透はきっと後者だ、分かってる。

「……ああ、ごめん」

透のおかげで少しずつ冷静を取り戻す。

「どした?」

「いや……ちょっとな」

話をしたいけれど、休み時間の終わりを告げるチャイムがそれを妨げる。

「たまには昼飯食おうぜ、裏庭でな」

「……ああ、分かった」

退屈な音楽の授業も終わり、俺の話を聞いてくれるのであろう透の誘いをありが
たく受けた。

冷静になって考えなければいけない。感情のままに進めばきっと翠との関係はこじれてしまう。夏休み前と同じように……。

あの時、呆れたように俺の話を聞いていた翠の様子を思い出す。

また同じことを繰り返しても意味はない。