「あの場面だけは、相手が一枚上手だったかも……まあ、俺のカンが当たってよかったっす!」

精一杯、分厚いオブラートに包んで。自分の手柄になんてするつもりはありません。

「……」

今まで騒いでいた空気が、自分の一言でスッと冷めるのを感じる。

え……?

この程度でもみんなに引かれてしまうのかよ?

空気だけでなく、自分の体温までもが下がっていく気がする。

「……だよな」

沈黙を破った晴樹先輩が俺に向けた視線は、呆れるでもなく、責めるでもなく。至って真面目なものだった。

「確かにな。あの時俺たちがちょっと油断した隙を突いてきたもんな」

「ああ、だな。点取ったからって、一瞬の気の緩みがあんな展開になるんだもんな」

他のメンバーが口々にあの時の状況を語り始める。

なんだ。みんな、分かっていたんだ。

「あれは俺たちのミスだ。ごめん、一紫。ほんと、よく止めてくれたよ」

「ああ、いや……ありがとうございます」

なんだ……そうか。ほんの少し入り口を作るだけで、こんな素直に自分たちの試合を振り返ることができる。

ミスすることが悪いんじゃないんだ。勝敗にばかり目を向けてたんじゃ、そんなミスはまた起きてしまう。

悪い所にこそ目を向けて、次に繋げていくべきだ。

「よし。次は一瞬でも気抜くなよ!」

「はいっ!!」

さっきまでの、ちょっとモヤッとした気分が嘘のように晴れやかな気分。

勝ちたい気持ちは同じ。

みんなの気持ちが1つになって、必死に練習できたのならば、それでいい。

それで負けてしまったとしても、きっと悔いはない。

曇っていた空から、一筋の細い光が見えた気がした。